被相続人が住んでいた家屋を売却するとき、その売却価格から、購入時の価格や仲介手数料などの取得費を差し引いた利益(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課税されます。
相続した家屋を売る際には、きちんと売却益を得たうえで、節税したいものです。
今回は、被相続人の家屋を売却する際に知っておきたい控除と、相続時の特例について紹介します。
売却時に大幅な控除を受けられる『空き家の3,000万円の特別控除』
相続した家屋を売却するときに知っておきたいのが『空き家の譲渡所得の3,000万円の特別控除』です。
これは、相続により空き家になった不動産を相続人が売却し、適用要件を満たした場合には、売却した際の譲渡所得から最高3,000万円を控除することができる制度です。
主な適用要件は以下の通りです。
●相続開始の直前において被相続人が一人で居住していたものであること
●1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された区分所有建築物以外の建物であること
●相続時から売却時まで、事業、貸付、居住の用に供されていないこと
●相続により土地および家屋を取得すること
●売却代金が1億円未満であること
●家屋については、一定の耐震基準を満たしていること
なお、相続を開始した日から3年が経過する年の12月31日、かつ特例の適用期間である2016年4月1日から2023年12月31日までに譲渡することも条件となります。
条件は厳しいですが、控除される額は大きいので、覚えておくとよいでしょう。
相続時の税金を軽減できる『小規模宅地等の特例』
次に、被相続人の自宅を相続する際に知っておきたいのが『小規模宅地等の特例』です。
これは、被相続人が自宅として使っていた土地や、事業用に使っていた土地、法人に貸し付けていた土地などについて、評価額を最大で80%減額できる制度です。
自宅として使っていた土地については、330㎡を限度として80%が減額されます。
相続税は財産の評価額に基づいて計算されるため、税額を大幅に軽減できます。
ただし、基本的に小規模宅地等の特例が使えるのは、被相続人と同居している配偶者や親族です。
もし、同居している人がいなければ、別居している親族も特例を使えますが、その親族に持ち家がないことが条件となります。
たとえば、すでに持ち家があり両親と別居していた子どもは、親の自宅を相続したときにこの特例は使えません。
相続人に持ち家がないのであれば、被相続人が亡くなり、相続税の申告期限後にその自宅を売却しても、特例が使えるため相続税は大きく削減できます。
一方、持ち家がある相続人の場合は、被相続人が生きているときに売却することが、相続する自宅を売却する際の大きなポイントになるといえるでしょう。
相続する可能性のある家屋がある場合は、特例や控除の適用要件をあらかじめ確認しておき、できるだけ税金が抑えられる方法をとれるよう準備しておきましょう。
相続が発生したとき、遺言書がなければ、一から相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議では、財産をどのように分けるかを話し合うわけですが、相続人のなかに未成年者がいる場合、『特別代理人』と呼ばれる代理人の選任が必要となるケースが多々あります。
今回は、こうしたケースについて解説していきます。
未成年者は単独で法律行為を行うことができない
遺産分割協議は一種の契約行為です。
契約をすることにより、法的に効力が生じます。
遺産分割協議のなかで「私はこの家はいりません」「この財産はほしいです」ということを意思表示し、それに反対意見が出なければそれが認められることになります。
このような法律行為は、十分な判断能力がある人であれば単独で行うことができます。
しかし、一般的に判断能力が成熟していないと考えられている『未成年者』などは、民法の規定により法律行為を行うことができません。
つまり、未成年者が相続人にいる場合は、そのままでは遺産分割協議を進めることができないため、未成年者は代理人を立てる必要があります。
一般的に、未成年者の法定代理人は親権である両親です。
しかし、遺産分割協議においては父または母が代理人になれないことがあります。
それは、親もまた相続人となっている場合です。
たとえば父が死亡し、母と未成年の子が相続人となったケースなどがあげられるでしょう。
そもそも代理人は、本人の利益のために行動するものですが、親と子どもがともに相続人になっている場合、両者は『利益相反関係』にあたり、親が自分の利益のために子どもにとって不利益な遺産分割を行うおそれがあります。
そのため、このケースでは親は代理人になれないのです。
なお、子どもと親が相続人である場合、未成年者が2人以上いれば、それぞれに特別代理人の選任が必要となります。
子と子の間に利益相反関係があるからです。
法定代理人が代理人になれないと特別代理人の選任が必要となる
親権者が子どもの代理人になれない場合、『特別代理人』を選任しなければなりません。
特別代理人とは、家庭裁判所が選任する代理人のことです。
遺産分割協議において未成年者と利害関係のない第三者がなることができ、一般的には弁護士や司法書士などの専門家や相続人以外の親族を特別代理人にするケースが多くあります。
特別代理人選任の申し立てができるのは、親権者と利害関係人です。
未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下のような必要書類をそろえて申し立てます。
●特別代理人選任申立書
●未成年者の戸籍謄本
●親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本
●特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
●遺産分割協議書案などの利益相反に関する資料
申し立てから審判結果が通知されるまでの期間は、約1カ月程度が目安とされています。
相続人に未成年者が含まれていると、多くの場合、特別代理人の選任が必要となります。
選任しないまま遺産分割協議を進めると無効となってしまいますので、注意しましょう。
土地や建物を相続したら、所有者を故人から相続人に変更する必要があります。
ところがいざ手続しようとしたら、そもそも未登記物件であることが判明した、というケースがあります。
未登記物件を相続したら、不動産登記法の規定に従い、『表題登記』の登記申請義務を負うことになります。
今回は、未登記物件のデメリットと登記の手順を説明します。
登記しないままではその建物の所有権を主張できない
不動産を所有者の名義で登記しないままでおくと、主に次のような弊害があります。
❶所有権を第三者に主張できない
登記は『所有権の持ち主』を示すものです。
登記がなければ、他人が「この不動産は私のもの」といって登記を済ませてしまったときに、自分の所有物だと主張できません。
❷住宅ローンなどが組めない・売買できない
未登記の土地に家などを建てるとき、住宅ローンを組もうとしても、所有権保存登記(最初に行われる所有権の登記)もないままでは抵当権の設定登記をすることができず、金融機関での審査に通りません。
不動産を売却するときも、未登記では買い手がつかないケースが大半です。
未登記物件の登記手順とは?まずは表題登記手続きが必要
次に、未登記物件を登記するときの流れを説明します。
未登記物件の登記は、表題登記(未登記の土地や建物について新規で行う登記)という手続が必要です。
これを行うことにより、不動産の所在地や地番、所有者の名前や住所、建物であれば家屋番号などの情報が登記簿に登録されます。
ちなみに不動産登記法では『所有権を得てから1カ月以内に表題登記の申請をしなければならない』と義務化されています。
表題登記を行うときには、土地の面積を測量するなどの手続きが必要です。
一般的な相続登記とは少し手順が異なりますので、わからないことは事前に法務局に問い合わせ、理解したうえできちんと登記を済ませましょう。