相続財産に株式が含まれているとき、相続手続きはどのように進めていけばよいでしょうか。
遺産分割協議がまとまるまでは、株式は『準共有』という状態になり、株主としての権利行使に制限ができてしまいます。
場合によっては会社の経営に悪影響を与える恐れもあります。
今回は株式の相続について、遺産分割時の注意点とともに解説します。
株式の存在を見落としたまま相続手続きを進めてしまったら?
相続が発生したとき、被相続人があらかじめ財産目録を作っておいてくれれば、相続財産がスムーズに把握できるでしょう。
しかし、相続財産が不明確なまま相続が発生することは少なくありません。
このような場合、一般的には相続人が財産調査を行いますが、被相続人が株式を保有していることを見落としたまま相続手続きが進んでしまうことがあります。
株式の相続手続きをせず放置してしまった場合、特定の相続人ではなく全ての相続人が共同で所有している『準共有』という状態になります。
株式が準共有の場合の問題点としては、株主としての権利行使に一部制限が出てしまうことがあげられます。
権利行使するには、原則として、準共有者である相続人のなかから代表者を1人決め、株式会社に対してその代表者(権利行使者)の氏名などを通知する必要があります。
このとき、準共有者同士で争いが起こってしまうと、代表者を決めるのが難しくなってしまいます。
持ち株が多い場合、会社の意思決定に支障が出る恐れがありますし、事業活動が立ち行かなくなると株式自体の価値も下がりかねません。
準共有状態を解消するための遺産分割協議の手順と注意点
株式の準共有状態を解消するには、遺産分割協議で、誰がどれだけ株式を相続するかを決める必要があります。
その手順は以下のとおりです。
① 株式の価格を算出する
② 株式そのものを分けるのか、代償分割にするか、株式を売却して現金に換えて相続するかなどを決める
③ 相続する割合を話し合う
①の株式の価格については、上場株式か非上場株式なのか、非上場株式の場合は会社の規模などによって計算方法が違いますから、トラブル回避のためにも専門家に依頼するなどして正確に算出するのが望ましいでしょう。
②の代償分割とは、共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人がほかの共同相続人などに対して債務を負担することをいいます。
被相続人が経営していた会社の場合、後継者問題で揉めてしまい、遺産分割協議がまとまらない事態も起こり得ます。
その場合、協議を早くまとめるために専門家の力を借りることも検討したいところです。
可能であれば、生前に対策を立てておくのがベストです。
相続人の中に85歳未満の障害者がいるときには、その相続人にかかる税額から一定額を控除することができる『障害者控除』という制度があります。
障害者控除は、財産を引き継いだ障害者に対して、近親者を亡くしたあとの生活費や、医療費負担に配慮した制度です。
ここでは、障害者控除について、その概要や適用要件などを紹介します。
相続人である障害者の生活に配慮
負担を減らすための障害者控除
障害者は、経済的にも物理的にも、1人で生活するのが大変な場合があります。
そうでなくても、保護者であった近親者が亡くなったときに、障害者は健常者に比べて生活への影響が大きいことが考えられます。
そこで、相続人に税法上の『障害者』がいる場合には、相続税が控除される制度が用意されています。
障害者控除の適用要件は次のとおりです。
●相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある
●相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である
●相続や遺贈によって財産を取得した人が法定相続人である
注意が必要なのは、法定相続人ではないのに、遺言書などによって受遺者となったときです。
この場合、たとえ税法上の障害者であり、遺贈されることになったとしても、障害者控除を受けることはできません。
障害者控除額の計算方法で押さえておくべき要点とは
障害者控除の額は、次のように算出します。
『障害者が満85歳になるまでの年数×10万円』
※より障害の程度が重い特別障害者の場合は20万円
仮に障害者が10歳だとすると、(85歳-10歳)×10万円=750万円が障害者控除として相続税額から控除されることになります。
ちなみに、障害者控除の額の方が相続税よりも高くなることがあります。
そのときには、高くなった分を扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。
また、障害者控除を過去に受けたことがある場合には、控除額が計算式よりも低くなることがあります。
小規模宅地等の特例など、相続税における控除制度を利用する場合、控除後に相続税額が0になったとしても、申告が必要なケースがあります。
しかし障害者控除においては、控除後に相続税額が0になった場合は申告が必要ありません。
心当たりがある時は、申告が必要かを判断するためにも、障害者控除が適用されるのか、控除額がいくらになるかなどを確認しておきましょう。
相続税の申告と納税は、『相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内』と決まっています。
基本的に基礎控除内に収まるときには相続税の申告は必要ありませんが、相続税額がゼロであっても申告が必要なケースがあります。
申告漏れはペナルティを科される場合もあるので、相続税の申告の有無について再度確認しておきましょう。
基礎控除額に収まる場合は原則として申告は不要
相続した財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以内に収まり、相続税を納める必要がないときには、基本的に申告をする必要はありません。
もし基礎控除内で収まらない場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告が必要です。
相続税については、小規模宅地等の特例や配偶者控除、障害者控除、相次相続控除、未成年控除などの控除制度があります。
基礎控除のみでは相続税が発生するときでも、これらの制度を使うと相続税を納めなくてよくなるケースもあります。
相続税がゼロでも例外的に申告が必要な控除とは
控除制度は、適用後の相続税税額が0円であっても申告が必要なものと、申告が不要なものに分かれます。
申告が必要な控除制度の主なものは、配偶者控除、小規模宅地等の特例、農地等の納税猶予や寄付金控除などです。
一方、障害者控除や未成年控除、相次相続控除は申告が不要です。
日本では、さまざまな控除制度を使うことで相続税が課税されないケースがほとんどです。
しかし、申告が必要なものについては、申告が漏れてしまうと延滞税や加算税が課税されてしまうおそれがあります。
相続が発生し、控除制度を使うときには、申告が必要か不要かを調べておくことが大切です。