不動産を相続したときには、被相続人から相続人に名義変更をする『相続登記』を申請することができます。
相続登記は、これまでは任意でしたが、法改正により2024年度をめどに義務化されることが決まったほか、
登記の期限や登記を怠った際の罰則なども設けられています。
今回は、相続登記の義務化について解説します。
不動産を相続した際には『相続登記』が必要になる
土地や家屋など、不動産を相続した人は、
『相続登記』(相続による所有権移転登記)を申請することができます。
申請の際は、不動産が所在する地域を管轄する法務局に対して、
『登記申請書』、『遺言書』や『遺産分割協議書』などの必要書類を提出し、登録免許税を納めます。
相続登記は、現状では任意とされていますが、2021年4月に民法や不動産登記法の改正法が成立し、
公布日である4月28日から3年を超えない日までに義務化されることが決まりました。
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が義務付けられ、
違反者には10万円以下の過料が科せられることになります。
一方で、現在の手続きが煩雑すぎるという声もあるため、手続きの簡略化も予定されています。
今回の改正の背景には、相続登記がされないまま所有者不明の土地が増加していることがあります。
これが公共事業や民間の土地取引の妨げになっていることが、問題視されていました。
もちろん、相続登記をしないことは、相続人本人にとってもデメリットとなります。
名義が故人のままでは、売買や賃貸に出すなど不動産の積極的な活用が難しくなりますし、
ローンや借入金の担保にすることもできません。
また、相続登記を放置すると、代が進むごとに相続人の数が多くなっていきます。
そうなると、いざ登記手続きをしようとしたときに権利関係が複雑になり、話が進まない恐れもあります。
もし、すでに権利関係が複雑な不動産があるとしたら、早めに手を打ったほうがよいでしょう。
生前贈与で不動産を譲る場合も 忘れずに登記申請を
相続は、死亡を契機に所有権が移転しますが、
生前に所有権を移転させる手段として贈与という選択肢もあります。
不動産の贈与についても、所有権移転登記を申請することができます。
生前贈与の場合は、相続した場合と登記の登録免許税の税率が異なる点に注意が必要です。
相続の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%なのに対し、生前贈与の場合は2%で、
相続時に比べて5倍の金額がかかります。
このほか、生前贈与では贈与税や不動産取得税がかかり、相続に比べて税金の額が大きくなる可能性があります。
相続と生前贈与のどちらを選ぶにしても、その違いをよく理解しておくことが大切です。
いずれの場合も、登記申請を忘れずに行いましょう。
夏にはお盆休みがあり、親族同士、顔を合わせることも増えるでしょう。
普段は離れている親族が、そろって顔を合わせる貴重な機会なので、ぜひ相続について話し合ってみましょう。
スムーズな相続に、事前の合意は欠かせません。
今回は、行事などで集まった親族に、相続について話す際のポイントや注意点を解説します。
相続についてじっくり話す それも終活の形の一つ
自身の相続対策をなるべく早めに始めるためには、
相続についての自分の考えを、家族と共有することも大切です。
家族が改まって顔を合わせる機会を作るのは難しいご時世ですが、
お盆やお正月など、家族が集まる機会を有効活用して話を進めていきたいものです。
相続について、一部の家族にだけ話すことで、トラブルが起きてしまう危険もありますが、
家族が比較的集まりやすい季節行事の際に話をすれば、公平感もあり、トラブルの回避にもつながります。
万一、急に相続が始まってしまうと、
その後の事務処理は相続人にとって必要以上に手間のかかることになるため、事前の話し合いは重要です。
相続について家族に話をする際には、
『家族の意見が、自分と同じとは限らない』ということを心に留めておきましょう。
たとえば、今の自宅にはいずれ息子が住むだろうと思っていたら、
当の息子は売ろうと考えていたなど、意見が一致しないことは珍しくありません。
お盆などで家族が集まる機会に、少しずつでも自分の考えを伝えていくことも、大切な“終活”の一つです。
自分の財産の内容や大切な書類の置き場所の確認を
もちろん、財産内容によって話すべきことは変わりますが、
以下については共通して伝えておくとよいでしょう。
●自分の財産の内容と価値について
●不動産の名義をどうするか
●預貯金の相続手続きをどうするか
●相続税はかかるのか、いくらになりそうか
このほか、所有している不動産の所在等や会員権、通帳、株券、生命保険証券の保管場所や、
場合によっては借用書、連帯保証の契約書などについても、
事情や置き場所を明らかにしておくとよいでしょう。
また、エンディングノートなどを活用して整理することもおすすめです。
財産分割についても、法定通りにするのか、それとは異なる自分の考えがあるのかを話します。
この時、具体的な金額や内容まで言う必要はなく、
全員に「こうしたいがいいか」と確認できれば十分です。
揉めやすい内容なので、相続人以外の人には席を外してもらうとよいでしょう。
相続は人生の総括の一部です。家族・親族と胸襟を開いて話すことから始めましょう。
相続税の納税は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内、
相続放棄の選択は原則3カ月以内など、相続手続きには期限が設けられているため、
相続が始まると、相続人は急に忙しくなってしまいます。
相続人の数や相続財産が多いと、手続きは非常に煩雑になる恐れもあります。
今回は、いざというときに備えるため、相続手続きの流れをおさらいしておきましょう。
相続人と相続財産を調査し確定することを早めに
相続が開始したら、まず1相続人の確定、2相続財産の確定、3遺言書の有無の確認を行います。
1の相続人の確定については、「実は前妻と父親との間に子どもがいた」
「法定相続人となる人の行方が分からない」など、
実際に調べ始めると思わぬことが判明し、手間がかかることがあります。
2の相続財産は、被相続人が生前に伝えてくれていたとしても、改めて調べる必要があります。
「ネットで株を買ったことを本人も忘れていた」
「実は高額な骨董品を持っていた」など、
相続人が把握していない財産が見つかることもあります。
3の遺言書の有無を確認する際は、公正証書遺言であれば、
最寄りの公証役場の遺言検索システムで調べることができます。
必要な情報がそろったら遺産分割をしていく
以上を終えたら、遺産分割をします。
遺言書があれば、その内容に従い、遺言書がないときは全ての相続人で協議し、
合意した内容を『遺産分割協議書』という書面にまとめます。
その後、相続税の納税や実際の分割手続きに入ります。
不動産を相続するなら相続登記、株式や車などを相続するなら名義変更などを行います。
なお、相続放棄の選択期限は相続の開始があったことを知った時から原則3カ月以内ですので、
相続放棄の判断は、相続財産が確定した段階で早めにしたほうがよいでしょう。
相続手続きは煩雑になりがちですから、可能な限り事前に準備しておくことが大切です。