近年、全国で管理が不⼗分な空き家が増加し、治安の⾯からも社会問題となっています。空き家には不審者が⼊る恐れや、放⽕による⽕災などのリスクもあります。仮に空き家が⽕事になり、隣家に延焼したらどうなるのか、所有者の責任などについて説明します。
実家の家屋を相続したものの、すでに⾃宅を所有しているため、実家は空き家のまま置いてあるといった⽅も多いのではないでしょうか。実はこうした空き家に不審者が侵⼊して、タバコの不始末や放⽕によって⽕事になる事故や事件は少なくありません。消防庁が発表した『令和4年(1〜9⽉)における⽕災の概要(概数)について』によれば、⽕災のなかでもっとも多いのは建物の⽕災であり、出⽕原因における『放⽕』および『放⽕の疑い』の件数を合計すると、たばこによる失⽕や、たき⽕による失⽕の件数よりも多くなります。空き家への放⽕による⽕災は、決して他⼈事ではないのです。
空き家の⽕災で問題になるのが、⼈がいないために対応が遅れ、隣家などに延焼する可能性が⾼いことです。当然、損害賠償請求などのトラブルに発展することもあります。万が⼀、空き家で⽕災が発⽣し延焼した場合、所有者にはどのような法的責任が⽣じるのでしょうか。
⺠法では故意や過失によって他者に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うと規定されています。しかし、故意ではない⽕災(失⽕)の場合には、『失⽕責任法』によって損害賠償責任を負わないとされています。つまり基本的には、不審者の放⽕による空き家⽕災に対して、家屋の所有者には法的責任はないことになります。
ただしそれには条件があります。たとえば、空き家の管理状態が悪く、適切に管理が⾏われていれば⽕災を防ぐことができた場合などは、所有者に『重過失』があったと判断され、損害賠償責任を問われることがあります。
重過失とは、わずかな注意を払いさえすれば避けられた損害や損失を、漫然と⾒過ごしたことで起きた過失のことです。たとえば、空き家に容易に⼊れ、燃えやすいものが放置されているような場合には、第三者が放⽕したとしても所有者に重過失があると判断される可能性があります。このようなケースで隣家に延焼すると、損害賠償責任も問われる可能性が⾼いでしょう。⼀⽅、建物の⼀部の鍵が壊れており、そこから不良少年が侵⼊しタバコの⽕の不始末から⽕災が発⽣したような場合には、所有者に過失がないとは⾔い切れないものの、不良少年の侵⼊やタバコの⽕の不始末の危険性までの予⾒は不可能と判断され、損害賠償責任を問われる可能性は低いでしょう。
損害賠償責任の有無にかかわらず、いずれにしても空き家の所有者は⽕災防⽌への意識を持つことが⼤切です。定期的に訪問して状態を確認し、掃除・修繕する、室内外の不⽤品を処分する、必要に応じて管理会社に管理を依頼するなど、適切な対策を進めていきましょう。