いつのまにか自分も当事者に? 誰にでも起こりうる遺産トラブル

全国の家庭裁判所での遺産分割事件数は長期的には増加傾向にあり、遺産トラブルは他人事ではなくなってきています。今回は、遺産トラブルにつながる主な原因と遺産トラブルを防ぐための対策について紹介します。

遺産分割事件のうち1/3は遺産総額が1,000万円以下

 『裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第10回)』によると、令和4年の遺産分割事件の新受件数は1万6,687件で、近年高止まり状態にあるものの、直近ではさらに増加傾向を示しています。また、『令和4年司法統計年報』によれば、遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割しない」を除く)は6,857件で、遺産の価額別に見ると、1,000万円以下が2,296件と全体の約1/3を占め、5,000万円以下とすると5,231件と全体の約3/4を占めています。遺産トラブルは富裕層だから起こるものと思われがちですが、実際には富裕層でなくともトラブルは発生しており、誰にでも起こりうる身近なものといえます。

 相続で揉める原因は、遺産の価額ばかりではありません。たとえば、家族や親族の仲が悪い、疎遠であるなど、円滑にコミュニケーションがとれない関係では、意思疎通ができずトラブルにつながりやすくなります。また、相続財産が実家しかないなど、遺産の大半を不動産が占める場合には、不動産は現物分割しにくいため、分割方法で揉める原因となり得ます。故人に前婚の配偶者との間に生まれた子どもや、認知された子どもがいる場合にも、相続権や相続分をめぐって感情的な対立が生じることがあります。

 さらに、相続人の立場の違いがトラブルの原因になることもあります。たとえば、介護の負担が特定の家族に偏っている場合には寄与分が、高額な生前贈与を受けた家族がいる場合などには特別益が認められることがありますが、それらをどのように評価するかなどで意見が対立することがあります。

遺産トラブルを防ぐためには生前に遺言書などの準備を

このような遺産トラブルを防ぐためにできることとして、次のような対策があります。
まず重要なのが、遺言書を作成しておくことです。遺言書がない場合、遺産分割協議で揉めることが多く、相続税の申告期限までに分割できない場合、小規模宅地等の特例など税制上の優遇制度に影響が生じます。なお、遺言書の作成においては、遺留分(兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上相続できる財産の最低保証額で、配偶者・子は法定相続分の1/2、ただし親のみの場合は法定相続分の1/3)の侵害に注意する必要があります。

 また、財産の管理に民事信託を利用することも有効です。民事信託とは、信頼できる親族などを受託者として財産の管理または処分を託す制度のことで、生前から死後にかけての財産管理方法や死後の財産帰属先を決めておくことができます。認知症などの不安がある場合には、任意後見制度を利用する方法もあります。十分な判断能力があるうちに、あらかじめ公正証書で任意後見人と任意後見契約を締結し、将来委任する事務(生活療養看護および財産管理に関する事務)の内容を定めておくと、判断能力が衰えた後、任意後見人にこれらの事務を代理してもらうことができます。

 遺産分割事件は年々増加しており、遺産の金額が5,000万円以下の事件が全体の3/4以上を占めることからも、遺産トラブルは身近なもので、一般的な家庭でも発生する可能性は十分あるといえます。自分が当事者になるかもしれませんので、有事に備えておくことをおすすめします。もし不安があれば、法律や相続税などに詳しい専門家に相談してみましょう。