新たな非課税枠の追加で便利に 『相続時精算課税制度』とは

2,500万円まで贈与税がかからず、贈与した財産を相続時に相続財産に加算して相続税で精算する『相続時精算課税制度』に、2024年1⽉から年間110万円までの基礎控除が認められました。本制度のメリットやどのような場合に活⽤するのがよいか解説します。

新しい『相続時精算課税制度』その内容やメリットとは︖

 『相続時精算課税制度』は、原則として、60歳以上の⽗⺟または祖⽗⺟などから、18歳以上の⼦または孫などに対し、贈与をした場合に選択できる贈与税の制度です。改正前の制度は、⽣前贈与の際に特別控除の2,500万円までは贈与税が⾮課税となり、贈与者が亡くなったときに贈与された財産を相続財産に加算して相続税が課税されるものでした。このため、税⾦の⽀払いを相続時まで先送りする制度ということもでき、必ずしも節税につながるとはいえませんでした。

 これらを踏まえ、2024年1⽉1⽇から施⾏された改正で、従来の2,500万円の特別控除とは別に、新たに年間110万円の基礎控除が追加されました。この新しい相続時精算課税制度には、次のようなメリットがあります。

 まず、年間110万円までの贈与については、申告不要で贈与税がかからないだけでなく、相続財産に加算する必要もなくなり、相続税もかかりません。このため、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算される通常の暦年課税制度と⽐べても、使いやすい制度となっています。

 次に、賃貸不動産など収益性のある財産を贈与した場合、賃料などは受贈者が得ることになりますので、贈与者は相続財産の増加を抑えることができ、相続税の節税につながります。

 また、年間110万円を超える贈与は相続財産に加算されるものの、その評価額は贈与時の価格で評価されるため、これを利⽤して将来値上がりが予想される財産を早めに贈与しておけば、相続財産の評価は値上がりした時価よりも低くなり、相続税を節税することができます。

『相続時精算課税制度』を使うべき︖使うべきでない︖

 相続時精算課税制度は、どのような場合に利⽤するのがよいでしょうか。

 まず、贈与する財産を含め、相続財産が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続⼈の数)の範囲内に収まる場合です。この場合には、⽣前贈与をしても相続時に相続税がかかることは
ありません。

 次に、年間110万円を超えて多額の贈与をする場合です。暦年課税制度では、年間110万円までの贈与は⾮課税ですが、超過累進課税のため贈与額が多くなるほど税率が⼤きくなります。

 そして、将来値上がりしそうな財産などがある場合です。贈与した財産は、贈与時の価格で課税されるため、相続税が抑えられます。収益を⽣む財産がある場合も、贈与すれば収益は受贈者に移転するため、相続財産の増加を抑制できます。

 これらに対して、本制度の利⽤をおすすめできない場合もあります。たとえば、⼀度、相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与は暦年課税制度に戻すことができなくなります。また、⼦や孫などに⾃宅を譲りたい場合に、本制度を使うと、相続時に、⼀定の要件のもとで⾃宅などの宅地を相続したときに、相続税評価額が最⼤80%減額される⼩規模宅地等の特例を適⽤することができません。

 今回の改正でメリットが増えた相続時精算課税制度ですが、使う状況やタイミングによっては思うような節税効果につながらない場合もあります。利⽤する場合には、専⾨的な知識も必要になるため、贈与者の資産状況を正しく把握したうえで、相続に詳しい専⾨家への相談をおすすめします。