認知症になってからでは遅い? 事前にできる準備を解説

日本では現在、65歳以上の高齢者の約8人に1人が認知症といわれています。認知症になると、法律行為ができなくなったり、口座が凍結されたりするなど、活動が制限されます。そこで、認知症発症後も安心して生活するために、事前にできる対策を説明します。

認知症対策は遺言書で十分?後見制度や信託の活用を

 認知症発症後に作成された遺言は無効となるおそれがありますが、認知症発症前に遺言書を作成していれば、それで認知症対策となるのでしょうか。遺言では遺産における相続分の指定や、分割方法などを決めておくこともできますので、遺言書があれば本人も家族も安心することができます。しかし、遺言は遺言者が亡くなったときに初めて効力を生じるものであり、認知症を発症してから亡くなるまでのことを考慮すると、遺言書だけでは認知症対策として十分とはいえません。
 
 認知症を発症して判断能力が不十分だと判断されると、銀行口座の凍結や、認知症発症後に締結した契約などの法律行為が取り消される可能性もあり、社会生活に支障が生じる場合があります。そこで、認知症に備えて事前にできる対策として、認知症発症後の自分の財産管理などの仕事を依頼できる『任意後見制度』や、家族などに財産管理を託せる『民事信託』があり、これらを併用することもできます。

 任意後見制度では、本人の判断能力が十分なうちに、本人が任意後見人を選んで、将来その人に委任する法律行為について公正証書で契約を締結しておきます。そして、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所での任意後見監督人の選任の審判後に、任意後見人が契約に基づいて委任された行為を本人に代わり行うことになります。

もし認知症になってしまったら状態によっては信託の利用も可

 民事信託も、本人の判断能力が十分なうちに、信託契約によって、信頼できる家族など(以下「受託者」)に財産を預け、その受託者が財産の管理や処分を行うことになります。このとき財産の所有名義も形式上は受託者に移すことになるため、民事信託を利用するときは、受託者以外の家族がいる場合などには、その理解を得ておくのが無難ともいえます。そうでない場合はトラブルにつながることも想定されます。

 認知症と診断されると、契約などの法律行為を制限されることがありますので、民事信託を利用できなくなる場合があります。例外的に、認知症の前段階である軽度認知症など、判断能力の低下の程度によっては、民事信託を利用できたという事例もあります。ただし、これはあくまで例外的な事例ですので、認知症が発症する前に早めに検討し、行動するようにしましょう。信託契約については、特別の方式などは法定されていませんが、公正証書で作成しておけば安心でしょう。

 なお、認知症で判断能力が不十分だと判断された後からでも利用できる対策としては、『法定後見制度』があります。この制度では、任意後見制度とは異なり、認知症の程度に応じて、家庭裁判所の審判により成年後見人や保佐人、補助人などが選任され、本人の財産に関する法律行為を支援することになります。認知症で判断能力が低下すると、採用できる対策も限られてきます。判断能力が低下する前に任意後見制度などの準備を進めておくことが重要です。安心して生活できるよう民事信託の併用も含め、専門家への早めの相談をおすすめします。