不動産で相続税を支払う? 知っておきたい物納の仕組み

相続税の納税は金銭納付が原則ですが、延納によっても金銭での納付が困難な場合に一定の要件を満たせば、不動産などで納税する「物納」という方法も選択できます。今回は、物納の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れ、注意点などについて説明します。

物納の基礎知識物納できる財産は限られている

 国税は金銭で納付することが原則ですが、相続税に限り、延納(分割払い)を利用してもなお金銭で納付することが困難な場合には、納税者の申請によって、その納付を困難とする金額を限度として、一定の相続財産で納付する「物納」が認められています。

 これは、相続財産に不動産の割合が多く金銭が少ないケースのように、相続税の申告期限内に納税資金を準備できない場合があるためです。そして、物納の対象となる財産は、相続税の課税価格の計算の基礎となった相続財産のうち、国内にある土地、建物、株式などに限られており、物納に充てる順位も決められています。

 物納を利用する場合には、金銭での納付が困難な場合でも相続税を納付できる、物納に充てる財産の譲渡所得税は非課税になるなどのメリットがありますが、一方で、物納に充てる財産の評価額が売買価額よりも低くなる可能性や、物納申請の手続きが煩雑であるなどのデメリットを認識しておくことが重要です。

 なお、近年は物納の利用状況が変化し、2020年以降は年間数十件程度にとどまっています。減少傾向の背景には、①2006年の相続税法改正で物納の要件が厳しくなり、流動性が低い財産の物納が困難になった、②不動産市場の活発化により売却して現金化しやすくなった、③相続税を最長20年間分割で支払う延納制度が普及し、物納よりも比較的手続きが簡単な延納の利用が増加したこと、などがあげられます。

物納の手続きと注意点申請は相続税の納付期限までに

 物納の手続きの流れは、大きく次の通りです。まず、物納を申請する税額を算定し、物納対象の相続財産から適切な財産を選定します。次に、物納申請書のほか、金銭納付を困難とする理由書、財産ごとの必要書類を作成します。そして、物納申請書と必要書類を、原則として相続税の納付期限までに、被相続人の死亡の時における住所地を所轄する税務署に提出します。なお、期限内の提出が困難な場合には、提出期限延長届出書を提出することで最長1年まで期限延長が可能です。

 物納申請を行うと、申請書の提出期限の翌日から原則3カ月以内に審査が行われ、物納申請財産が不動産である場合には、税務署と財務局による現地調査も実施されます。審査によって、物納申請の内容が法律で定める要件を満たしており、物納申請財産が物納に充てる財産として適当であると判断された場合は、相続税物納許可通知書が送付されます。そして、物納が許可された財産について所有権移転手続きを行うと、物納財産収納済証書が交付されます。一方、物納申請の内容が要件を満たしておらず、物納申請財産が不適格であると判断された場合には相続税物納却下通知書が送付されます。

 なお、物納する際には、相続税の納付期限までに申請しなければならない、要件が厳しく申請しても却下されることもある、利子税がかかることがあるなどの点に注意する必要があります。物納は、相続税の納税資金対策として有効な手段となり得ますが、必ずしも最適な方法とは限りません。専門家へ相談しながら延納制度などほかの選択肢も含め最適な対応をすることが重要です。