生前贈与は、相続対策として魅力的な選択肢です。それを活用するためには、税制や贈与の手続きについて正確に理解することが重要です。今回は、不動産の生前贈与の仕組みやメリット、注意点について解説します。
生前贈与の最大の特徴は、相続と異なり「生きている間に財産を渡せる」という点です。これにより、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。ただし、贈与時には贈与税が課税されるため、特に不動産のような高額資産を贈与する場合には、制度の理解が欠かせません。たとえば、不動産の評価額計算には、建物の固定資産税評価額や、土地の路線価方式や倍率方式が用いられます。
不動産の生前贈与には、次のようなメリットがあります。不動産を引き継いでほしい人に確実に譲り渡すことで、相続時のトラブルを防止することができます。
また、不動産は保有する財産のなかで大きな割合を占めることが多く、相続税対策として非常に効果的です。特に、贈与した財産は贈与時の評価額で税金が計算されるため、将来価値が上昇する可能性のある物件を贈与することで、相続財産に加算される場合でも税額を抑えることができます。
さらに、賃貸マンションやアパートなどの収益物件を所有している場合、贈与すれば賃料収入は受贈者が得ることになるため、相続財産の増加を抑制できます。
一方、デメリットには次のようなものがあります。まず、贈与税の税率は高いため、高額な贈与税が発生する可能性があります。
また、登録免許税についても、相続の場合よりも贈与の場合のほうが税率が高いこと、相続では課税されない不動産取得税の負担もあります。さらに、暦年贈与の場合、相続開始前一定期間以内の贈与は、相続財産に加算され相続税の課税対象とされています。
生前贈与には、税負担を抑える次のような特例制度があります。
①「暦年贈与」:年間110万円までの贈与が非課税となり、長期間にわたる分割贈与に有効。ただし、生前贈与の持ち戻し期間が3年から7年に段階的に延長されているので注意が必要。
②「相続時精算課税制度」:60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与した際に選択でき、贈与時は累計2,500万円まで贈与税が非課税となるが、相続時には相続財産に合算して相続税を計算し納税することが必要。なお、2024年1月以降の贈与については、上記の特別控除額に加え、年間110万円の基礎控除額が創設された。
③「配偶者控除」:婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産またはそれを取得するための金銭の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることにより基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで非課税となる。
なお、「小規模宅地等の特例」という制度では、亡くなった人が自宅や事業で使用していた宅地の相続税評価額を最大80%削減できます。ただし、この特例は相続時にのみ適用され、生前贈与では利用できません。このように相続時にしか利用できない特例もあるため、生前贈与が最適な選択とは限りません。相続と贈与のどちらがより適切なのかは、不動産の評価や税額を慎重にシミュレーションする必要があります。そのうえで生前贈与を行う場合は、必要な書類や契約をしっかり整え、専門家と共に計画的に進めることが重要です。また、事前に家族と贈与の計画を共有することで、将来の遺産分割のトラブル防止につながります。