不動産のローンなど、借入金がある場合の相続はどうなるのでしょう?
相続人の間で遺産分割協議をしっかりと済ませないと、共同相続人にその相続分に応じて分割して承継されてしまいます。
今回は、借入金が残った不動産を承継する際に起きたトラブル事例を紹介いたします。
※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。
森川文乃(仮名)さんは20年前に夫を亡くし、家業の森川商事株式会社を継承。
社長業のかたわら、3人の子供を育て上げました。
文乃さんの子供は、長女・安(仮名)子さん、次女・冴子(仮名)さん、長男・喜一郎(仮名)さんの3人。
喜一郎さんは大学卒業後、他社での修行を経て、森川商事に入り、実質的な経営者として活躍。
会社を継ぐことになっていました。
文乃さんも当然、喜一郎さんに社長職と会社の株式を譲る構え。
しかし、相続になったら姉2人との間に相続財産の金額面で差がついてしまうので、遺言を書くことにしました。
文乃さんは遺言で、財産を以下のように分割するよう記しました。
「これで一安心」と、文乃さんは遺言をしたためた半年後に、息を引き取りました。
文乃さんが亡くなり、3姉弟で遺産分割協議が始まりました。
遺言を見て声を上げたのは冴子さん。
「アパートをもらえるのはいいけれど、どうして私が5,000万円の借金まで背負わなければいけないのよ!」と激怒。
もともと姉弟と仲が悪いこともあり、借入金の承継には応じなくなりました。
ここでのポイントは、遺産分割の対象は、プラスの財産だけということ。
被相続人(文乃さん)が負担していたマイナスの財産である金銭債務は、相続開始と同時に共同相続人(安子さん、冴子さん、喜一郎さん)にその相続分に応じて承継されるもので、遺産分割協議によって、その負担を決めるものではありません。
もちろん、事業を承継する者が事業の借入金を引き継いだり、不動産を取得する者が不動産のローンを引き継ぐのが順当だと思われます。
その場合も、相続人間での合意が必須。
さらに債権者にあたる銀行等の承認を得る必要もあります。
したがって、冴子さんが遺産分割協議に応じない限り、借入金は姉弟3人で分割して返済しなければいけないのです
記事提供:税理士法人エクラコンサルティング