その資産、本当に社長のもの? 混合防止がトラブル回避のカギ

 中小企業では、会社名義の預金や車などを「社長のもの」と混同するケースがあります。こうした混同は、税務上の問題や将来の事業承継時にトラブルを引き起こすリスクがあります。今回は、法人と社長個人の資産の混同によるリスクやその対策について説明します。

法人資産と個人資産を混同していませんか?

 中小企業においては、会社の口座を社長が私用で使っていたり、会社名義の車を社長やその家族が利用していたりするケースが見受けられます。しかし、法律上、会社と個人は「別人格」として扱われるため、自分の会社だからといって法人資産と個人資産を混同すると、さまざまな問題に発展する可能性があります。
 まず、法人では厳格な会計処理が求められるため、資産の混同は大きな税務リスクを抱えることになります。たとえば、会社の預金を社長が私的に使えば、税務署から役員賞与と認定され、課税の対象になることがあります。役員賞与は原則として損金算入ができないため、法人の税負担が増えるだけでなく、社長個人にも所得税が課されることになります。また、会社名義の車や不動産などを社長や家族が無償や低額で私用に使っていれば、「経済的利益の供与」として課税の対象となる可能性があり、法人資産の私的流用が、帳簿への不記載や虚偽の処理などの仮装・隠蔽行為とみなされた場合には、重加算税などの厳しいペナルティが課されることがあります。
 こうした税務上の問題に加えて、資産の混同によって、将来、相続や事業承継が発生したときに、問題が起こることもあります。たとえば、会社名義の不動産を社長が「自分の資産」と思い込んで相続財産として相続人に伝えていた場合には、相続手続きの際に相続人と後継者の間でトラブルの原因となる可能性があります。このように、社長が法人資産を個人資産と誤認することで、税金面での損失を被るだけでなく、家族間や後継者との信頼関係にも悪影響を及ぼすおそれがあります。

事業承継・相続を見据えて今からできる整理と対策を

 
 このような資産の混同が生じる背景には、中小企業の社長がビジネスとプライベートの領域を重ねていることが多い点があげられます。そのため、日常的に会社と個人の財産の線引きがあいまいになりやすいといえます。税務上の問題を防ぐためには、法人と個人の資産の境界を明確にしておくことが重要です。具体的には、まず、「会社名義」と「個人名義」の所有物を洗い出し、現状を整理します。そして、そのうえで、会社名義の資産を私的に使用している実態があれば、適切な会計処理がなされているかを確認し、必要に応じて是正します。たとえば、自宅が会社名義である場合には、適正な賃料を会社に支払っているか、会社経費として妥当かどうかを検討する必要があります。

 また、事業承継や相続の場面でのトラブルを避けるためには、次のような点に注意が必要です。
①将来的な事業承継を円滑に進めるためには、資産の帰属をあいまいにせず、後継者が正しく引き継げる状態を整えておくことが重要です。
②税務リスクや資産分割のトラブルを未然に防ぐには、税理士や司法書士などの専門家に早めに相談することが有効です。
③なによりも、社長自身が「どこまでが自分の財産か」を再確認することが、家族や後継者を守るための第一歩になります。
 会社と社長個人の財産は、税務上も法務上も明確に区別しておくべきです。日常的な資産運用のあいまいさが、将来的に税金や相続のトラブルを引き起こすこともあります。事業承継をスムーズに進めるためにも、資産の棚卸しとルール化は早めに実施することをおすすめします。