遺言がある場合、相続は原則としてその内容に従って進められますが、誰が相続手続きの実務を担うかによって進行状況は大きく左右されます。今回は、遺言で指定することができる遺言執行者について、基本的な役割や権限、人選のポイントなどを説明します。
相続が開始したときに、遺言の内容を実現していく行為を、遺言の執行といいます。遺言執行者とは、遺言の執行を担う者であり、遺言の趣旨に従って相続財産の名義変更や解約などの手続きを主導する立場にあります。
遺言執行者の主な役割は、相続財産の管理、財産目録の作成、相続人や受遺者への通知、手続きの進行管理など、遺言の内容を実現するために必要な一連の業務を遂行することです。そのため、遺言執行者には、相続人に対する中立性が求められ、遺言者の意思を忠実に実現する責任と、善良な管理者としての注意義務が課されます。
遺言執行者が必ず行うべきこととしては、就任時に相続人全員へ就任の通知と遺言内容の説明を行い、執行完了後にはその経過と結果を報告することなどがあげられます。また、遺産の内容を調査して財産目録を作成し、相続人に交付する義務もあります。遺言執行者が行える業務には、相続財産の管理、遺言書の検認、預貯金の払戻し・分配、不動産の登記申請、株式の名義変更など遺言の執行に必要な一切の行為が含まれます。特定の財産を相続人以外に取得させる特定遺贈の執行は、遺言執行者がいる場合は遺言執行者のみが行うことができます。また、遺言による子の認知、推定相続人の廃除やその取消しの手続きも、遺言執行者にしか認められていません。一方で、遺言に記載されていない財産の処分や配分の変更、相続税の申告などは、遺言執行者の権限外の行為となります。
遺言執行者を選任する方法は、遺言者自身が遺言であらかじめ指定することが一般的です。指定がされていない場合には、相続人などの利害関係人からの申立てにより、家庭裁判所が選任することができます。なお、遺言執行者にすべての執行を任せるのではなく、特定の行為に限定して権限を与えることも可能です。遺言執行者には、未成年者や破産者でない限り、誰でもなることができますが、相続人間での対立が予想される場合などは、弁護士や司法書士などの第三者である専門家を選任することで、手続きがスムーズに進む傾向があります。
遺言執行者の選任が必要かどうかは、遺言の内容によって異なります。たとえば、遺言によって、子の認知を行う場合や、相続人の廃除やその取消しを行う場合には、これらの手続きは遺言執行者しかできないため、必ず遺言執行者の選任が必要となります。一方、こうした内容を含まない遺言であれば、必ずしも遺言執行者を選任しなくても、相続人が手続きを進めることは可能です。ただし、相続人間に争いが生じる懸念がある場合や、手続きについて専門的な知識が必要となる場合、高齢者や認知症の相続人がいる場合などは、遺言執行者を選任することで、より確実で円滑な相続手続きが期待できます。
相続の生前対策として遺言を作成する際には、相続財産の内容や相続人の状況を踏まえ、遺言執行者の必要性を慎重に検討することが大切です。遺言の内容どおりに相続が行われるか不安がある場合などは、専門家に相談することをおすすめします。