「きちんとした遺言書を作ってさえあれば、相続争いを未然に防げたのに…」
こんなケースは決して珍しくありません。遺言は法定相続に優先する効力を持ちます。被相続人が一生考えた末の遺志を記した遺言があれば、多くの相続人はその遺志を尊重する気持ちを持つものです。
遺言の効力とは?
遺言は遺言者が原則として自由に書くことができます。しかし、法的な効力が生じる事項は民法で定められています。民法では、遺言できる行為として、次の10種類を挙げています。これ以外のことを遺言の内容としても、法律上の効力は生じません。
・身分に関する事項
(1) 認知…婚姻外子(胎児も含む)がいる場合、遺言で認知できます。認知によって子供は相続人になれるのです
(2) 後見人指定及び後見監督人の指定…自分が死亡すれば親権者がなくなる未成年の子がいる場合に、その子の親代わりとなる者、及びその者を監督する者を指定することができます
・相続に関する事項
(1) 相続人の廃除及び廃除の取り消し…推定相続人を廃除したり、過去に排除したけれども、それを取り消すときは、その請求を遺言に載せられます
(2) 相続分の指定または指定の委託…法定相続分通りではない相続を考えている場合、遺言書で各相続人の相続分を指定することが可能。相続分の指定を第三者に委託することもできます(遺留分の規定に反することは不可)
(3) 遺産分割方法の指定または指定の委託…例えば、自宅は長男、株式は二男にというように、各財産を誰に相続させるかを指定できます。また、分割方法を決めることを第三者に委託することもできます
(4) 遺産分割の禁止…これにより相続開始後5年間まで遺産の分割を禁止することが可能になります
(5) 相続人間の担保責任の指定…財産の分割後にその財産に欠陥があって損害を受けた場合、相続人同士は互いの相続分に応じて補償し合うことが義務付けられています。遺言でその義務を重くしたり軽くすることが可能になります
(6) 遺贈の減殺方法の指定…遺留分が侵害された場合、遺贈はすべて一律に贈与より前に遺贈額に按分して減殺されるという民法の定めを変えられます
(7) 遺言執行者の指定または指定の委託…遺言の内容を実行してもらう遺言執行者を誰に依頼するかを指定できます。子供の認知など、他の相続人の協力が得られづらいときに効果的。その指定を第三者に委託することもできます
・財産処分に関する事項
(1) 遺贈、寄付行為…内縁関係にある者や特別に貢献してくれた者など、相続人以外にも財産を贈与したいときに遺言書による遺贈という方法が求められます。また、財団法人を設立するために財産を提供するなど、寄付の意思を表すことができます
遺言に記載しても効力がないものとは?
「遺骨を海にまいてほしい」「葬式はできるだけ豪華に」「愛犬の世話を頼む」「死後、臓器を提供したい」というような、単なる希望は遺言事項に該当しません。
しかし、これらの事項を遺言書に盛り込むと、遺言書が無効になるわけではありません。その内容を実行するかどうかは、遺族の判断に委ねられます。よって、必ず実行されるという確証はありません。ただし、遺言書に一言入れておくことで、遺族が被相続人の遺志をくんでくれる可能性はあります。
遺言書に関しては、肩肘張らずに懸念事項や希望などを盛り込んでおくのもよいでしょう。