亡くなった人の遺言書が出てきたら、遺産分割はその内容に従わなければなりません。
しかし、その後に新たな遺言書がどうすればいいのでしょう。
今回は、自筆証書遺言が2通出てきたがために、兄弟同士が骨肉の争いに発展しまった例を紹介します。
※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています
澤村伸介さん(仮名)は革製品製造会社を営み、品質が高く評価されていました。
その伸介さんが2001年2月に亡くなり、その四十九日も過ぎて顧問弁護士が預かっていた1997年12月の遺言書が開封されました。
内容は、伸介さんが保有していた会社の株式のうち、67%を当時の社長の次男・二郎・文子さん夫妻に、33%を三男・三郎さんに、銀行預金のほとんどを長男・一郎さんに相続させるというものでした。
これが第一の遺言書です。
ところが、遺言書開封から3ヵ月後の2001年5月に、長男の一郎さんが、「自分も生前に預かった」と別の遺言書(いわゆる「第二の遺言書」)を持参しました。
この遺言書は、2000年4月付で作成されたもので、内容は伸介さん保有の株式75%を長男の一郎さんに、残り25%を三男・三郎さんに相続させるというものでした。
複数ある遺言書の内容が抵触している場合、その抵触している部分については、もっとも新しい遺言書の内容が有効となる(民法1023条)ため、通常であれば第二の遺言書が有効となります。
ここから第一の遺言書側の次男夫婦と、第二の遺言側の長男・三男との間で、従業員や地元・顧客も巻き込んだ長い法廷闘争が始まったのです。
まず「第二の遺言書」の真贋を次男の二郎さんが訴訟を提起しますが、2005年11月に最高裁判所から「無効と言える十分な証拠がない」という理由で二郎さんの訴えは退けられました。
その後、二郎さんの妻・文子さんが原告となって新たに裁判所に提訴します。
2009年5月、文子さんが提起していた第二の遺言書の無効確認等の訴訟の控訴審判決において、高等裁判所は第二の遺言書を有効とした原判決を取消し、第二の遺言書を無効とする逆転判決を出しました。
一方、長男・一郎さんは、2009年10月、二郎・文子両氏を相手取り、自分に会社の株主権や経営権を認めるよう地裁に提訴します。
2012年10月、高裁は一郎さんの提出した第二遺言書は伸介さん本人の遺言書であると認定し、一郎さんに株の保有を認める判決を下しています。
重要な争点はただ一つ、「第二の遺言書の真贋」だけです。
筆跡鑑定も争点となりましたが、三文判でも、記名が「沢村」と略字だろうと、形式的に遺言の基準を満たしていれば、偽物と証明するのは難しいようです。
やはり、生前に分割協議を行い公正証書遺言を残すのが鉄則です。
記事提供:税理士法人エクラコンサルティング