もし認知症になってしまったら、自分一人で贈与や金融商品の売買などができなくなってしまいます。
家族が認知症になってしまった場合に、法定成年後見制度を利用する人も多くいますが、資産運用しながら成年後見制度を活用するのはなかなか難しいといえます。
そこで今回は、資産運用中の成年後見制度の注意点について説明します。
※法律上の後見には、法定後見と任意後見がありますが、この記事では法定後見について記載します。
資産運用をしている最中に認知症になってしまったら?
DC(確定拠出年金制度)などの私的年金制度が拡充され、ただ単に貯蓄するだけではなく、まとまった資産をもとに投資信託を購入するなど、積極的に資産運用をしながら老後の資金を増やそうとする人も多くなってきました。
なかには、元本を減らさずに資産を運用し、そこで得た利益から自身にかかる医療費などを出してほしいと考えている人もいるかもしれません。
資産運用をするときに重要なのは、まめにリバランスをすることです。
できるだけ損失を最小限に抑えるために、売買や解約を繰り返して資産を増やすこともあるでしょう。
しかし、万が一、保有者本人が認知症になってしまった場合、売買や解約、譲渡などを行うことができなくなってしまいます。
それは、高齢者が資産運用する際のリスクといえるかもしれません。
元本割れのリスクがある投資は成年後見制度ではできない
では、家庭裁判所で成年後見人が選任された場合に、資産運用は継続できるのでしょうか。
成年後見人は、成年被後見人の財産を善良な管理者の注意をもって管理しなければなりません。
成年後見人の主な役割は、成年被後見人の利益のために財産を管理することです。
成年後見人として他人の財産を管理する以上、自分の財産と同じ程度ではなく、それ以上にしっかり管理することが要求されます。
株式投資や投資信託は、通常の預金で得られる利息よりはるかによい配当や利回りが得られる可能性があるものです。
しかしその一方で、元本割れのリスクもあります。
裁判所の見解としては、成年被後見人の財産を積極的に増やすことではなく、現状維持を基本として考えますし、もし元本割れして損失が出てしまった場合、本人の利益に反することになるため、成年後見人が成年被後見人の財産を使って投資信託などを行うことは、原則的に認められていないのです。
以上のことから、将来に備えるための資産運用であっても、成年後見制度では、資産運用が継続できない場合があります。
資産運用を視野に入れているのであれば、成年後見制度ではなく民事信託など、ほかの方法も検討しておくほうが賢明といえるかもしれません。
いざという時に備え、早いうちから対策を考えておくことが肝要です。
残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合に、被相続人が亡くなった後も安心して自宅に住み続けられる権利である『配偶者居住権』。
これは、残された配偶者がいままで通りの生活を送れるようにするための方策の一環ですが、相続税の節税手段としても使えることがあります。
今回は、配偶者居住権と節税の関係について紹介します。
利用権と所有権を分ける!配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人が所有していた自宅に、被相続人が亡くなった後も配偶者が一定期間、または生涯住み続けられる権利のことです。
法改正によって、所有権と配偶者居住権を分けて相続することができるようになったため、自宅の所有権が子どもや親戚などの第三者に渡ってしまっても、配偶者は賃料の負担なく住み慣れた住居に住むことができます。
この配偶者居住権が、相続税の節税になるといわれていますが、具体的にはどのような場合のことをいうのでしょうか。
それは、二次相続を行う場合です。
父親が亡くなり母親と子どもが相続人となった後、母親が亡くなって子どもが母親の財産を相続することを『二次相続』といいます。
まず、仮に評価額が1億円の自宅について、最初の相続のときに母親が配偶者居住権として3,000万円分、子どもが所有権として7,000万円分を相続していたとします。
このとき、配偶者は配偶者控除として1億6,000万円までは非課税となるため、相続税がかかるのは子どもの7,000万円についてのみです。
そして、その母親が亡くなると、次は二次相続となります。
配偶者居住権を取得していた場合は、配偶者であった母が亡くなることで権利そのものが消滅するだけのため、3,000万円を子が相続することはなく、相続税も課税されません。
しかし、もし、母親が一次相続の際に相続したのが配偶者居住権ではなく所有権だった場合、3,000万円を子が相続することになるため、3,000万円に対して相続税が課税されるのです。
節税対策であれば小規模宅地等の特例も視野に
不動産の相続税対策といえば『小規模宅地等の特例』が有名ですが、これは原則として、配偶者または同居親族が使える特例であり、すでに自立して持ち家のある子どもは一次相続では適用されません。
しかし二次相続については、別居であっても、持ち家ではなく賃貸で暮らしている子どもなら、一定の要件を満たせば特例の適用を受けることができます。
節税につながりやすい配偶者居住権ですが、不動産の評価額や相続財産の額などによっては、配偶者居住権を設定せずに小規模宅地等の特例を活用した方が節税になることがあります。
また、配偶者の保有財産の額によっても、一次相続と二次相続のどちらが税負担が多くなるのかが異なります。
そういった面から、節税のことばかり考えてしまいそうですが、配偶者居住権は、配偶者が老後を安心して暮らせるためにあるということも忘れてはいけません。
配偶者がいて自宅を保有している人は、専門家に相談するなどして、配偶者居住権についても検討しておきましょう。
相続は一生のうちに何度も経験するものではないため、いざ相続が発生したときに、何をどうすればよいのかわからずに、悩むことが多くあります。
相続手続きの手順や、そこにかかる費用も、そのなかの一つといえるでしょう。
相続が発生したとき、どのような段階でどのような費用が発生するのかを確認していきます。
相続人が多いほど戸籍の収集に手間も費用もかかる
相続が開始すると、死亡届の提出や年金受給停止、保険の資格喪失届などの手続きが発生します。
このほか、相続の手順とかかる費用という側面でポイントとなるのは、次の4つです。
①相続人の確定:相続人を確定するためには、亡くなった被相続人や相続人と推定される人の戸籍を調べる必要があります。
じつは被相続人に離婚歴があって前妻との間に子どもがいたなど、予期せぬ相続人が見つかることもあるからです。
相続人全員の戸籍謄本、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍謄本、全員の戸籍の附票など、取得する書類も多いですし、相続人が多ければそのぶんコストがかかりますので注意しましょう。
遺産分割協議書の作成に数十万円がかかることも
②相続遺産の特定:被相続人の所有する不動産、株式、預貯金などを調べます。基本的に大きな費用はかかりません。
③遺産分割協議:被相続人が遺言書を遺していない場合などには相続人全員で遺産分割協議を行い、『遺産分割協議書』を作成します。
この作成を専門家に依頼すると、相続遺産の額等によって数万円から数十万円の費用が発生します。
④相続税を納税:相続が発生した翌日から10カ月以内に相続税を納税しなければなりません。
税金の対策が十分にできていないうちに発生することが多い相続。いざというときに慌てないよう、できる準備はしておきましょう。