締め切り迫る! 個人版事業承継税制

個人事業者の事業承継を促進するため、2019年に『個人版事業承継税制』が創設されました。この適用を受けるには、2024年3月31日までに個人事業承継計画を都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。今回は、その概要と申請手順について説明します。

個人版事業承継税制とは?資産に関わる税金の納税猶予と免除

 個人事業主が事業を後継者に承継する場合、通常は、その事業に必要な資産ごと業務を後継者に引き継ぎ、後継者が新たに個人事業主となり事業を開始します。しかし、資産の譲渡に伴い何らかの税負担等が生じることがあるため、円滑に承継が進まない場合があります。そこで、個人事業者の事業承継を促進するため、2019年に10年間限定で個人版事業承継税制が創設されました。

 個人版事業承継税制とは、後継者が2019年1月1日から2028年12月31日の間に、青色申告に係る事業(不動産貸付業等を除く)を行なっていた先代からその事業に係る特定事業用資産を贈与・相続により取得し、事業を継続していく場合、一定の要件のもと、その資産に係る贈与税・相続税の納税が猶予され、後継者がさらに次世代の後継者にその事業用資産を承継した場合などに、猶予された税額が免除される制度です。特定事業用資産とは、先代事業者の事業用の宅地等(400㎡までの部分)、建物(床面積800㎡までの部分)、建物以外の一定の減価償却資産で、贈与・相続等の日の属する年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されたものをいいます。

 この制度の適用には、後継者は、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けた旨を記載した、先代事業者の事業を承継するための具体的な経営計画『個人事業承継計画』を2024年3月31日までに都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。そして、実際に贈与や相続を受けた場合には、贈与税・相続税の申告期限までに『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律』(以下、『円滑化法』)に基づく認定等が必要となります。

適用を受ける際の注意点 小規模宅地等の特例とは選択適用

 個人版事業承継税制では、納税を猶予された贈与税や相続税は、一定の要件を満たせば最終的には免除されます。ただし、この適用を受けるには、後継者は主に以下の点を確認しておく必要があります。

①納税が猶予される贈与税額または相続税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。

②納税猶予の適用を受けた後は、3年ごとに継続届出書を税務署に提出する必要があります。

③納税の猶予を受けても、やむを得ない理由以外で事業を廃止した場合や事業用資産を譲渡した場合などは、猶予されていた贈与税や相続税を利子税とともに納付する必要があります。

④個人版事業承継税制の適用を受ける場合、特定事業用宅地等の小規模宅地等について80%評価減できる相続税の課税価額の計算の特例(小規模宅地等の特例)の適用を受けることができません。

⑤贈与税の納税猶予の適用を受けた場合、贈与者の死亡時には、その贈与された特定事業用資産は、贈与時の時価で相続により取得したものとみなされて、ほかの相続財産と合算して相続税の課税対象となります。なお、その際、都道府県知事による円滑化法の確認を受け、一定の要件を満たしていれば、受贈した事業用資産について、相続税の納税猶予及び免除の適用を受けることができます。

 個人版事業承継税制の適用を受ければ後継者の税負担を抑えることができるため、事業承継が行いやすくなることが期待されますが適用を受けるための要件や手続きなどは複雑であるため、検討する際は早めに専門家に相談しましょう。
※記載内容は、2023年12月1日現在の法令・情報等に基づいています