生前から対策を。同族経営者が 事業承継を円滑に行う方法

自身が事業を立ち上げ、同族経営をしている方のなかには、経営を任せられる親族を後継者に選んで、その親族に円滑に事業を承継したいと考えている方もいるでしょう。今回は親族への承継を前提に、経営者が生前にできる事業承継対策と相続対策について紹介します。
※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。

事例でみる承継の悩みとその解決策

 事業承継を考える際には、経営権を後継者に承継するという要素と、株式を含む事業資産を承継するという要素、人脈や組織力などを承継するという要素を総合的に検討する必要があります。今回は主に株式の承継について具体的な事例を踏まえて、検討の流れを見ていきましょう。

 非上場の製造業を営む代表取締役社長Aさん(60代後半)には、後継者として有能な取締役の長男(30代後半)がいます。業績は順調で、Aさんは事業を長男に承継したいので、会社の株式(以下、株式)を長男に相続させたいと考えています。しかし、悩みが二つあります。一つは、株式の評価額が高く相続税が心配であること。もう一つは、保有財産の大半が株式のため、妻と長女にも財産を残す方法がわからないことです。

 この事例では、有能な取締役である長男に経営を承継し、経営基盤を確かなものにしておくために、株式を後継者の長男に承継するというAさんの判断は順当といえるでしょう。しかし、株式の評価額が高いままでは、Aさんが心配している通り、株式を相続する際の相続税が高くなる恐れがあります。

 そこで、相続が開始する前に株式の評価額を下げる対策をしておきます。たとえば、毎期経常的な配当がある場合は、特別配当や記念配当として配当する、Aさんの社長退任時に役員退職金を支給するなどの方法です。役員退職金は現金財産となるため、株式を長男が相続する代わりに、現金やその他の財産は妻と長女に多めに残す旨の遺言を作成しておくことで、Aさんの懸念解消にもつながります。

相続以外の株式の承継手段は?売買資金や納税資金の用意も必須

では、相続以外の株式の承継手段はどのような方法があるのでしょうか。相続以外には、長男が株式を買い取る方法(売買)と、株式を贈与により譲り受ける方法とがあります。長男が株式を買い取る場合には、株式の価値に相当する資金が必要となります。一方、贈与により譲り受ける場合は贈与税が課せられます。

 贈与税の課税方法は、年110万円までが非課税となる暦年課税か、通算2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、贈与者の死後、すでに贈与した財産も相続財産に含めて精算する相続時精算課税かを選択することになります。贈与税の税率は高いため、納税資金の確保についても目途を立てておくことが大切です。ただし、後継者が非上場会社の株式などを贈与または相続などにより取得した場合、一定の要件のもと、納税を猶予されたり、免除されたりする事業承継税制もあるので、ぜひその活用を検討しましょう。このように株式の承継方法は、後継者、相続人、財産の状況などによって異なるため、一概に何がよいとはいえません。スムーズな事業承継を行うためにも、早めに専門家に相談し、検討していきましょう。