住まいと老後資金を両立する 配偶者居住権の賢い活用法

 夫婦の一方が亡くなった際、残された配偶者が自宅に住み続けながら、生活費も確保できる「配偶者居住権」。制度開始から定着が進むいま、相続対策として、自宅の権利を「住む」と「持つ」に分割し、賢く遺産を分ける方法をわかりやすく説明します。

「住む」と「持つ」に分ける  居住の安定と資産の柔軟配分

 配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった際、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、終身または一定期間、無償で居住し続けることができる権利です。
 この制度は、自宅の価値を「住む権利(居住権)」と「所有する権利(所有権)」とに分解し、配偶者が居住権のみを相続できるようになっています。
 居住権の評価額は通常の所有権に比べて低くなるため、その分、配偶者は預貯金などの生活資金を多く相続しやすくなります。
 
 これまでは、法定相続分で遺産分割する際、配偶者が高額な自宅を相続すると、生活資金となる現預金が不足するケースが頻発していました。そこで、「住む場所はあるが、生活費が苦しい」という、困窮を防ぐための救済措置として、この制度が創設されたのです。
 
 本制度を活用することで、次のようなメリットが生まれます。
①配偶者の安心
 自宅を丸ごと相続しなくても住み慣れた環境を維持でき、老後の生活資金となる現金を多めに手元に確保できます。
②子どもの納得
 自宅の「所有権」を子どもが早期に相続することで、将来の二次相続対策になります。配偶者の死亡時に居住権は消滅しますが、その際に所有権を持つ子どもへの課税が生じないため、実質的な税負担の軽減につながります。

知っておきたい活用の注意点 メリットを最大化するコツ

 配偶者居住権が成立するには、次の要件をすべて満たす必要があります。
 ①残された人が、亡くなった人の法律上の配偶者である、②配偶者が、相続開始(逝去)の時点でその建物に実際に居住していた、③建物が亡くなった人の単独所有または配偶者との共有である、④遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得した。
 これらの要件を満たして成立した配偶者居住権は、法務局でその旨の「登記」をすることで第三者に対しても権利を主張できるようになります。仮に、新たな所有者がその建物を売却したとしても、その登記があれば配偶者の居住権は完全に保護されます。
 一方で、活用にあたり以下の注意も必要です。
①権利の譲渡・売却が不可
 居住権は配偶者一代限りの特別な権利であり、第三者への譲渡や売却は一切できません。
②無断での第三者利用は不可
 建物の所有者の承諾なしに勝手に賃貸に出すなど第三者に使用・収益させることはできません。
③通常の必要費は配偶者が負担
 建物の維持にかかる固定資産税や軽微な修繕費といった通常の必要費は、原則として居住する配偶者が負担します。
 配偶者居住権は、残されたパートナーの老後の安心を支える強力なツールです。ただし、家族の状況や将来の売却予定によっては、必ずしも最適な選択肢とならない場合もあります。「住まい」と「生活費」のバランスを考慮し、最適な相続プランを検討しましょう。