遺言書なんて、そう何度も作り直すものではないと思っている方も多いかもしれません。
しかし、ずっと前に作った遺言書を、そのまま放置すると、トラブルになってしまうことがあるので注意が必要です。
今回は、遺言書の有効期限について解説します。
さまざまな契約にある有効期限 遺言書ではどうか?
一般的に、借金には時効が存在します。
たとえば、お金を貸して督促しないまま一定期間が経つと、貸主の請求権が消滅してしまうのです。
これが時効(消滅時効)です。
一方、遺言書には消滅時効や有効期限はありません。
書いた人が何年前に作成したとしても、ずっと効力があります。
ただし、以下のように制度的に遺言書が効力を失うケースも存在します。
●何通も遺言書を作成したケース
遺言を書く人が何回も遺言書を作成した場合、従前の内容と抵触する部分については、最新のものが効力を持ち、それ以前に記載された抵触する部分は効力を失います。
●保管期間経過後の公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場で保管されるため、書き手にとって不本意な破棄や偽造のリスクがありません。
しかし、公証役場での保管期限は、法律では原則20年と決まっていますが、特別な事由(生存)により保存の必要があるときは保存義務があるので、公証役場によっては、遺言者が120歳になる年齢まで保管されます。
保管されていれば、紛失しても謄本の取得が可能ですが、保管期間経過後に紛失した場合は、その内容を証明することができなくなります。
遺言書は数年ごとに書き換えを 古すぎる遺言書の問題点
遺言書は、『書いた人が死亡した時から効力を生ずるもの』です。
したがって、まだ効力のないものに、有効期限や時効といった概念を当てはめるのは、そもそもそぐわないといえます。
100歳で亡くなった人が60歳の時に書いた遺言書であっても、民法の規定に則っていれば、遺言者の死亡の時から効力を生じます。
ただ、いくら有効でも、古すぎる遺言書にはさまざまな問題があります。
たとえば、相続人に指定した人が亡くなっていたり、子どもに相続させると書いておいた預金を使ってしまっていたりすることもあります。
ほかにも遺言書作成後に取得した財産や、遺言書に記載がない財産については、遺産分割協議が必要となります。
こうしたことから起こるトラブルを避けるためにも、遺言書を作成したら、数年ごとに見直し、書き換えたほうがよいでしょう。
ちなみに、遺言書を自宅に保管しておくのが不安な場合には、次のような手段を利用することができます。
●法務局で保管してもらう(自筆証書に限る)
●公正証書遺言にして、公証役場で保管する
●弁護士、司法書士などの第三者に預ける
●遺言信託を利用し、信託銀行などに預ける
民法に則った遺言書に、有効期限はありませんが、記入した内容は古くなっていきます。
数年ごとに書き換えるか、書き換えなくてもよい内容にするなどの工夫が必要です。
遺言には、基本的に何を書いてもかまいません。
ただし、書くことで法的拘束力を持つ内容については限られています。
また、書き方に誤りがあった場合には、民法に定められたルールにより無効になることがあるので注意が必要です。
今回は、遺言書の内容に関する規則やルールについて説明します。
効力を生ずる遺言の内容は法律で決まっている
『遺言書には、財産の分け方が書いてある』というイメージを持っている人が多いかもしれません。
大まかにはその通りで、遺言書に書くことで法的拘束力を持つものは、財産や身分、遺言の執行に関することに限定されています。
これらは法律用語でいうところの『遺言事項』に該当し、法的な効力が生ずるとされています。
たとえば、以下のようなものがあります。
●非嫡出子の認知
●未成年後見人や後見監督人の指定
●相続人の廃除や取り消し
●相続分の指定、指定の委託
●遺産分割方法の指定や遺産分割の禁止
●遺贈に関すること
●生命保険の受取人変更
●遺言執行者の指定
●特別受益の持ち戻し免除
一方で、遺言として残しても法的に意味がないものもあります。
「家族みんなで仲良く暮らすように」「兄弟みんなでお母さんのことを助けてあげなさい」などは、法的拘束力を持ちません。
ただ、遺言書で、自分亡き後に残された家族に意思を伝えたいという人は多いものです。
こうした内容は『付言事項』として遺言書に書き残すことができます。
先述したように、遺言書には何を書いても自由です。
なかなか面と向かって言えなかったことを改めて伝えるために、付言事項として残せば、法的拘束力はなくとも、思いを伝えることは可能です。
遺言書に効力を持たせるには守るべき要件がある
遺言書に書いてある財産や身分、相続についての内容が、必ず効力を生ずるかといえば、そうではありません。
その遺言書が民法に則っており、正しい記載ができているかも問われます。
たとえば、一般的な『自筆証書遺言』であれば、遺言者が遺言内容、自身の名前、作成日を自筆で書き、捺印していなければなりません。
財産目録以外は、自筆であることが条件なので、財産目録以外の部分をパソコンで打った自筆証書遺言は無効となります。
また、自筆証書遺言に訂正や加筆をするときには、単に二重線などで元の文を取り消して、上に書き足しただけでは不十分です。
訂正したところに印鑑を押し、さらに遺言書のなかで、どのように変更したのか(どの場所の文字を訂正したのか、何文字を削除し、何文字を新たに書き加えたのかなど)を付記、署名します。
このような、法律に沿った形式を守らなければ、単なる書き置きになってしまうのです。
このように、遺言書では法的拘束力が発生する内容や要件が決まっています。
要件の不備により無効になるリスクを回避するには、確実性の高い公正証書遺言での作成がおすすめです。
亡くなった親が、とても返済できないような多額の借金を残していた……。
そんな場合には、『相続放棄』を選択することができます。
これは、相続人が財産を相続したくないときに選べる手続きです。
相続放棄とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。主な考え方を解説します。
相続放棄をすると財産も負債も相続しなくなる
相続放棄とは、その言葉の通り『被相続人の財産に対する一切の相続権を放棄すること』です。
ここでいう財産とは、負債も含めその一切を指します。
つまり、相続放棄をすれば、プラスの財産も相続できませんが、借金の相続から逃れることができるといえます。
相続放棄は民法によって、『相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。』と規定されています。
つまり、父親が亡くなって、配偶者である母親と、その子どもである兄・妹の3人が相続人となった場合に、妹が相続放棄をすると、相続人は最初から母親と兄のみであると見なされるのです。
相続放棄の期限は原則3カ月 『相続の放棄の申述』の手続きを
相続放棄は、相続開始を知ったときから3カ月以内に行うと定められています。
家庭裁判所の審判により期間を伸長することもできますが、相続放棄をすると決めたら、早めに家庭裁判所で『相続の放棄の申述』の手続きをとりましょう。
また、相続放棄のほかに『限定承認』という制度を活用するという選択肢もあります。
相続放棄が、被相続人の財産や負債を一切受け継がないのに対し、限定承認は、相続開始を知ったときから3カ月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出することで『相続によって得た財産』を限度として、被相続人の債務などを相続します。
二つの違いをしっかり認識しておきましょう。