「誰にどれだけ、財産を分けられるのかを知る」と「財産がどれだけあるのかを把握する」の2つの事前準備ができれば、それを遺言として残すことが、相続の事前準備の締めくくりとなります。
遺言の目的は、遺産分野に関するトラブルを防止し、分割を円滑に行うことにありますが、結果的にそれが相続税の節税につながっていくのです。
理由の第一は相続時のトラブルを未然に防ぐことができるからです。
こうしたケースでは、遺産分割協議でもめる確率が高いでしょう。
遺言がなければ、相続人は遺産分割に関する話し合いを行うことになります。
話し合いが円満に行われれば問題ありませんが、折り合いがつかないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
家庭裁判所の調停になると、親族が対立することになり、相続を境にして、親族同士の付き合いが断絶してしまうケースも多々あります。
資産の額の大小にかかわらず、相続トラブルを未然に防ぐ有効な手段として、遺言書は作成するべきだと思います。
理由の第二は、遺言書を書くことで親の思いを子に伝えることができるからです。
遺言書を残せば「なぜこの財産はこの子が相続すべきなのか」という親の思いも子孫に明確に示すことができます。
たとえば、被相続人が家を守ってもらいたいから長男に多めに相続財産を分割したいと思っているとします。
しかし、遺言書を書かなかったとしたら、遺産分割協議でも長男の重要性が認められず、法定相続分通りに分けることになってしまうかもしれません。
しかしながら、一方で遺言書を書けば、被相続人の思い通りに、長男に多めに相続財産を分けることができます。
さらに遺言書には付言事項を書くことができます。
付言事項になぜ長男に多めに渡すことになったのかを書いておけば、家族も納得するかもしれません。
また法定相続人以外にも特別に財産を分け与えたいという人がいる場合にも遺言書は有効です。
たとえば、長男のお嫁さんが、家業を手伝ってくれたり、被相続人の面倒をよく見ていてくれたりするということは、よく聞く話です。
しかしながら、長男のお嫁さんは法定相続人ではないので、相続財産を分け与えることはできません。
結局、遺産分割協議で家のことを何も手伝っていない弟が相続財産を法律に従ってもらうことになり、後の兄弟間の禍根になるという話は後を絶ちません。
兄弟姉妹間の争いを避けるためにも、遺言書を書いておけば、長男のお嫁さんを指定相続人にするということも可能になるのです。
こうすることで相続人同士が納得でき、いたずらに家族間で争いが起こるのを予防することにもなります。
ただし、遺言によって相続人が相続できる遺産の最低保証額である「遺留分」を侵害してはいけません。
遺留分は、法定相続分の2分の1です。この部分は最低限残さなければいけません。
この遺留分を超えて分けるように遺言書に書いても、その分は被相続人の希望通りに分けられることはありませんので注意をしましょう。
理由の第三は、節税につながるからです。
小規模宅地の特例や配偶者の税額控除など相続税の節税の多くは特例を活用することが少なくありません。
ところが特例を活用するには申告を行うのが条件です。
申告には期限があり、相続開始後10カ月以内です。
つまり、10カ月以内に遺産分割協議を終わらせなければいけないのですが、家庭裁判所で調停になるということになれば、期限に間に合わなくなります。
結果的に節税ができないということになるのです。
また、分割がまとまらなければ土地の売却や物納ができません。
相続税は基本的に現金で納税しますが、納税資金がどうしても用意できない場合は不動産を売却して納税資金をつくる、ということになります。
しかし、遺産分割協議が不調に終われば、土地を売却することはできません。
結果的に納税資金が用意できないということになるのです。
さらに、一般家庭だけではなくて、農業を営んでいる人にも大きな影響があります。
たとえば、農地には納税猶予が認められていますが、協議がまとまらない場合は受けられません。
その後の農業経営が難しくなることも考えられます。
このように、分割協議がまとまらなければ、各種の特例や納税猶予を受けることができず、親族である相続人に大きな負担をかけることになります。
こうしたことは、被相続人が望んでいることではないと思います。ですから、遺言書の作成が何よりも大切なのです。