ニトリの「争族」事例に学ぶ生前対策と遺言の大切さ

ニトリの「争族」事例に学ぶ生前対策と遺言の大切さ

家具製造小売最大手のニトリホールディングス(以下ニトリ)の社長・似鳥昭雄氏が、父の義雄氏のニトリ株式会社の相続をめぐって親族から訴えられているケースは、規模も知名度も大きく、世間の注目の的となりました。
生前対策遺言が必要なことを教えてくれる一例です。

現在のニトリの前身は父・義雄氏が代表取締役となっていた「似鳥家具卸センター」で、母・みつ子氏、昭雄氏、昭雄氏の妻が取締役となっていました。
しかし前身は、弟や妹達も含めた似鳥家の個人商店の「似鳥家具店」でした。

争いの発端は義雄氏の1989年7月の相続にさかのぼります。
義雄氏が亡くなった際に、昭雄氏がニトリ株92,500株と関連株1,740株をすべて相続。
母親は不動産を、弟の幹雄氏と妹の洋子さんら3人妹弟は現金1,000万円ずつを、1990年1月付の遺産分割協議書で相続しました。

相関図

それから17年も経った2007年に、母、弟、妹の3人が「遺産分割協議書に押印された実印は勝手に使われたものであり、協議書は偽造されたものだから、株の分割は未了で、株式は共同保有のままである」と昭雄氏を訴えたのです。

2012年1月17日一審の札幌地裁では、この1990年の遺産分割協議書は、他の妹弟の実印を預かっていたみつ子氏が、義雄氏との話し合いで株が分散しないようにとの配慮で合意して(署名押印でなく記名押印でしたが)、妹弟の実印を押印したもので有効であると、昭雄氏側の全面勝訴の判決が出ています(現在は札幌高裁で二審中)。

妹弟が相続した1,000万円は妥当だったのか?

相続が起きた当時、公開前(かつ分割前)のニトリ株92,500株がいくらかは不明ですが、未上場株で数千万円程度の評価だったとすれば、この時の妹弟の取り分・現金1,000万円がそれほど不当とは言えません。
しかしニトリは1989年9月に株式公開し、1998年の508円の安値から2006年には13,480円(26倍)にまで高騰しています。
親族が株式の相続について争うことになったのも、この株価の高騰と無縁とは思えません。
昨年の米経済紙フォーブスによると、昭雄氏の株式資産総額は約1,300億円と推計されています。

この場合、父・義雄氏が誰にどのように会社を継がせるかを生前に決めておけば、このような争族問題は防げた可能性があります。
株式の贈与等を通じて計画的に後継者に株式を承継するといった対策方法も併用すべきだったかもしれません。

そもそも公開前の時点で相続が起きているのですから、生前に父親が株式の承継について公正遺言証書を用意しておけば、よかったのです。
遺言は、相続(争族)問題では極めて重要な対策です。

POINT

  • 未上場の中小企業経営者は、株式承継対策を生前に行わないと、「争族」に発展する危険性がある
  • 「争族」を防ぐには遺言が不可欠
  • 遺産分割協議の際、実印は各自で持っておくこと

記事提供:税理士法人エクラコンサルティング